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執筆者の写真KRITICAL

現場

長年放置していた歯の治療を再開すべく、妻が通っている歯科に行った。

感じの良い先生で、腕も良いのだろう、何度か通ううちに治療は終わりが見えてきた。


そんなある日、治療のために歯科に向かうと部屋で先生から

「今日は削ったりしないので、歯の型をとって終わりになります」

と言われ、削る治療がある度に汗びっしょりかいて、イヤホンで爆音していた私はホッとした。


「なので、助手のスタッフに任せますが、大丈夫ですか?」

「全然大丈夫です」


ほどなくして、助手と思われるスタッフの方が部屋に入って来られた。

歳の頃は40後半位のお姉さんで、手際や立ち振る舞いを見ているとおそらくベテランなのだろうと感じられた。

前述した通り、この歯科で削る治療の時はあまりに苦手過ぎて、拳を握りしめ、汗をかき、イヤホンで音を聞こえない状態にさせてもらっていたのだが、おそらく、その有り様をうっすら聞いていたのだろう、そのベテラン助手の方も知った感じで、

「あ、今日は削らないので大丈夫ですよ〜」

と全く嫌味の感じないフランクな声かけをしてくれた。

「あぁ、そうみたいで良かったです」

どーもすいやせん、てへへ。

みたいな感じで受け答えをしていた。


治療そのものは実にスムーズに進み、あっと言う間に終わった。


「はーい、これで終わりですー。じゃ椅子起こしますねー」

ウーーーーン。

リクライニングが戻る。

体を起こした正面はガラス張りになっており、神社でもらう甘酒用サイズの紙コップで口をゆすぎながら外を見ると、今日の天気が雨だった事を思い出した。


そんな私を横目にテキパキと片付けをしながら助手の方が

「これで、一旦型取ったので次は素材を決めて被せる工程になります」

「あぁ、はい」

「予約入れづらくなってしまっていて申し訳ありません。ちょっとお待たせしてしまうかもしれないです」

「あ、全然大丈夫です。仕事の合間見て入れていきますね」

「すみません、そうしてもらえると…」

「あぁ、はいはい」

「でもあれですよね?今日みたいな雨だと現場ないですよね?」

「…?」

「…?」

お互いすれ違いの沈黙が数秒間流れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(現場??撮影現場のこと言ってるのか?いや撮影はスタジオでもあるし、ロケだけでもないしな…。そもそもなんで撮影仕事って分かってるんだ?そんな話したっけ?いやしてないぞ…現場?なんのことだ…?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


話は変わるが、私は白髪が目立つ所に出て来てしまったのを機に、ここ数年定期的に金髪やグレイアッシュなどのハイトーンな色に髪を染めている。

散髪したてあるあるだと思うが、その時も染めて数日だったので、頭髪のほとんどがブリーチしたての金髪になっていたが、その事を自分で忘れていた。


答えに困ってしまい、変な顔をしながら正面のガラスに目をやると鏡のように私の姿を反射していた。

その時ハッとして全ての謎が解けた。

ここまで大体3秒位だったと思う。

この数秒で謎を解いた私を褒めたいと思う。


「あ、いや、自分肉体労働系の仕事ではないんですよ!笑」

その一言で相手もハッとして

「あ!え、すいません!!あ、ごめんなさい、私てっきり、あの、工事現場とかで働いてるのかと!」

「あー、ですよね?笑」

「うわー、やだぁー、ごーめんなさい!私勝手に勘違いしちゃって!」

「あはは、全然です!ちょっとそんな感じしますよね?金髪だしー」

「えー、じゃあ天気なんて関係ないですよね!やだ、すいません!ごめんなさい!」

「いいんです、いいんです!笑」


次回の予約をして小雨の降る中帰宅した。


仕事ではMacを使い、ちょっと変わり種の映画を見て、アドビ、イラレ、フォトショ、プレミア、アフターよろしく。

少しでもクリエイティブ系などと気取っていた自分をツルハシで脳天から突き刺してくれたベテラン助手のお姉さん、ありがとう。

俺まだまだ頑張る!



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